「地方で家を探したいけれど、賃貸がほとんど見つからない…」
地方移住を検討すると、多くの人が最初にぶつかるのが、この“住まい探しの壁”です。特に人口が少ない地域では、賃貸物件の数が都市部に比べて極端に少なく、結果として 中古住宅(空き家)を購入する という選択肢が現実味を帯びてきます。
しかし、中古住宅は「価格が安い」というメリットがある一方で、状態がバラバラで、修繕費が大きくかかるケースも珍しくありません。空き家バンクの掲載情報は最低限で、初心者には判断が難しい場面も多いのが実情です。
この記事では、
- 地方で中古住宅を探す3つのルート
- 内見時に必ずチェックしたいポイント
- 「安く買えたのに高くつく」よくある落とし穴
- 中古住宅と相性の良い住宅ローンの考え方
を、できるだけ専門用語をかみくだきながら整理します。最後には、実際に動き出すときの「次の一歩」もご紹介するので、地方で家を買うイメージを具体的に持ちたい方は、最後まで読んでみてください。
地方で中古住宅を探す3つのルート(不動産、空き家バンク、知人づて)
地方で中古住宅を探すとき、主なルートは次の3つです。
- ① 不動産屋に相談する
- ② 空き家バンクを活用する
- ③ 地域住民から直接紹介してもらう
おすすめの順番としては、まずは①不動産屋 → ②空き家バンクで選択肢を広げる → その土地に慣れてきたら③知人づて の流れで検討すると、安全性と情報量のバランスが取りやすくなります。
① 不動産屋で紹介される物件(安心感はあるが数は少ない)
地方の不動産屋は都市部ほど数が多くないため、紹介できる中古住宅の数も限られています。物件数は少ない一方、売主の情報や建物の状態が比較的整理されているため、初めて家を買う人でも安心して検討しやすいメリットがあります。
また、不動産屋が仲介する場合は、
- 重要事項説明
- 境界確認
- 権利関係のチェック
などがきちんと行われるため、トラブルを避けたい人には向いています。
② 空き家バンク(割安だが運用方法は自治体ごとに違う)
地方移住の人気とともに、空き家バンクは全国的に広がっています。空き家バンクはそのほとんどは、市町村が運営しているため「安心できるサイト」というイメージを持つ方も多いのですが、実際には自治体によって運用方法が大きく異なります。
- 自治体が売主と買主を「マッチング」するだけのパターン
- 登録された不動産屋が仲介に入るパターン
- 売主と買主が直接やり取りするパターン
特に、売主と直接やりとりする場合は、
- 掲載写真が少ない
- 家の状態が細かく記載されていない
- 契約や権利関係の確認を自分で進める必要がある
といったことが多く、内部の確認やインスペクション(住宅診断)の重要性が一段と高くなります。
③ 地域住民から直接紹介(“掘り出し物”はここにある)
田舎では、まだ市場に出ていない物件が「地域のつながり」の中で紹介されることがあります。立地や広さなど好条件の家が眠っていることもありますが、
- 紹介者との信頼関係が前提になる
- 感覚的な説明だけで建物の状態が不明なまま話が進みがち
- 口約束で話が進んでしまうリスクがある
といった側面もあります。
このルートを使う場合は、必ず専門家(不動産屋や建築士など)に間に入ってもらい、契約書や境界、権利関係を客観的に確認してもらうことが重要です。
中古住宅を内見するときに必ず見るポイント
気になる物件が見つかったら、いよいよ内見です。
ここでのチェック次第で、後からの「想定外の出費」をかなり減らすことができます。
1. 屋根・外壁の劣化(修繕額が大きくなりやすい)
屋根の補修は50〜150万円、外壁塗装は80〜150万円ほどかかることがあります。
パッと見で綺麗でも、築30年以上の家はほぼ間違いなく何らかのメンテナンスが必要です。
特に、
- 瓦のズレや割れ
- 外壁のヒビや塗装の剥がれ
- 雨樋の歪みや詰まり
などは素人でも見つけやすいポイントなので、必ず外からぐるっと一周して確認しましょう。
2. シロアリ・床下の湿気
地方では湿気がこもりやすく、また空き家の通風を日常的に行っていない場合に、シロアリ被害がある家も珍しくありません。
床下の状態は素人には判断しづらいので、
- インスペクションで床下も含めてチェックしてもらう
- 過去にシロアリ防除をした履歴や保証書があるか確認する
といった対応をおすすめします。
3. 水回り(給排水管の老朽化)
配管の劣化は修理費が読みにくく、見落とすと後から高額な工事が必要になることがあります。
キッチン・風呂・トイレの水圧や排水の流れは、実際に水を流してチェックしましょう。
- 赤サビが出る
- 排水時にゴボゴボと音がする
- 悪臭がする
といった症状がある場合は、配管交換が必要になる可能性があります。
4. 地域特有のリスク(潮風、豪雪、土砂災害など)
海沿いでは金属の腐食が早く、山間部では湿気や土砂災害のリスクがあります。
物件そのものだけでなく、
- ハザードマップ上での位置
- 周辺の斜面や川の状況
- 地元の人が話す「過去の災害の履歴」
も、できれば確認しておきたいポイントです。
5. 境界・権利関係(農地が絡むケース、未登記建物など)
田舎では「未登記の建物」「境界不明」「農地とセットで売られる」など、権利関係が複雑なケースが少なくありません。
不動産屋が入らない取引では特に注意が必要です。
境界については、
- 隣地との境界杭があるか
- 公図と現地の状態にズレがないか
- 実際にどこまでが自分の敷地になるのか
を、できる限り事前に確認しましょう。
内見のときに使える簡易チェックリスト
内見の時は下記のポイントをチェックしてみましょう。
- 屋根:割れ・ズレ・雨漏り跡はないか
- 外壁:大きなヒビ・塗装の剥がれはないか
- 床:ふかふかする場所や傾きはないか
- 水回り:水圧・排水・ニオイに問題はないか
- 窓・建具:開け閉めがスムーズか
- 周辺環境:道路の幅・騒音、日当たりはどうか
「安く買えても修繕費で高くつく」よくある落とし穴
中古住宅でよくあるのが、「本体価格は安かったのに、結果的に新築並みの総額になってしまった」というパターンです。
典型的な落とし穴をいくつか見ておきましょう。
● 解体費が想定以上に高い(木造でも100〜200万円)
「とりあえず買って、ダメなら壊して建て替えればいい」と考えがちですが、解体費用は地域や業者によって大きく幅があります。
例えば、地方の木造二階建て(延床30〜35坪)でも、
- 解体費:120〜180万円
- 廃材の処分費:別途発生
といった見積もりになることもあり、「解体前提ならそもそも買わない方が良かった」というケースも出てきます。
● 下水道未整備で浄化槽の新設が必要(70〜120万円)
地方では下水道が通っていない地域も多く、浄化槽の新設が必要になると大きな出費となります。
単独浄化槽を合併浄化槽に入れ替える場合も含めて、
- 浄化槽本体+工事費で70〜120万円前後
- 自治体の補助金がある場合もあるが、自己負担がゼロになるわけではない
といった費用感は、事前に把握しておきたいところです。
● 固定資産税が安い=価値が低い家ではない
田舎ほど固定資産税は安いですが、「税金が安いからお得」とは限りません。
重要なのは、
- 建物の状態(今後どの程度の修繕が必要か)
- 生活インフラ(道路・水道・下水・通信など)の利便性
といった“暮らしやすさ”の部分です。
税額だけを見て判断するのは危険です。
● 古民家は補助金が使える場合もあるが条件は厳しい
古民家のリノベ補助金制度は地域によって利用可能なところもあります。
- 一定の築年数や構造など、対象となる古民家の条件が決まっている
- 指定された施工業者を使う必要がある
- 事前申請が必須で、工事着工後は申請できない
など、使い勝手が良いとは言えない制度も少なくありません。
「補助金があるらしい」と聞いたら、具体的な条件と申請のタイミングを必ず確認しましょう。
中古住宅を買う前に必ずやるべき3つの準備
ここまで見てきたように、中古住宅は「安く買えてラッキー」で終わることもあれば、「想定外の出費」が重なってしまうこともあります。その分かれ目になるのが、購入前の準備です。
1. ホームインスペクション(住宅診断)を依頼する
5〜10万円の費用で大きなトラブルを回避できます。特に空き家バンク物件や、売主との直接取引では、診断を入れるかどうかで失敗率が大きく変わります。
インスペクションでは、
- 構造上の重大な欠陥がないか
- 雨漏りの有無
- 給排水や設備の状態
などを第三者の立場でチェックしてもらえます。「気になるけれど素人には判断できない部分」をカバーしてくれる存在だと考えてください。
2. 事前の資金計画を立てる
中古住宅を購入する場合、ざっくりとした目安としては、
「物件価格+修繕費(100〜300万円)」
くらいで予算を組んでおくと、現実的なラインになりやすいです。築年数が古い家や、屋根・水回りに不安がある家ほど、修繕費の比重が大きくなります。
3. 住宅ローンの“事前審査”を早めに通しておく
地方の物件は、数自体は少ないものの、「良い物件」はすぐに買い手がつくことが多いです。「ここだ」と思ったタイミングで動けるかどうかは、事前にローン審査を通しているかどうかにかかっています。
事前審査を済ませておくことで、
- 自分の借入可能額の目安がわかる
- 売主側から「この人は本気で買える人だ」と信頼されやすい
- 他の検討者より先に話を進めやすい
といったメリットがあります。
【住宅ローン戦略】中古住宅・空き家と相性のよいローンの種類
最後に、中古住宅や空き家バンクの物件と相性の良い住宅ローンの考え方を整理しておきます。ローンの条件は金融機関によって異なりますが、ここではよく使われるパターンを紹介します。
● 中古住宅向けローン(ネット銀行・地方銀行)
中古物件は築年数が古いため、ネット銀行の「中古住宅+リフォーム一体型ローン」や、地方銀行の「住み替え・リフォーム対応型ローン」が使いやすいことがあります。
一方で、
- 築年数や構造(旧耐震基準かどうか)によっては融資が難しい
- 再建築不可物件はローンがつかないことが多い
といった「利用できないケース」もあるため、気になる物件がある場合は早めに相談しておくのが安心です。
● フラット35(築古でも利用できるケースあり)
民間ローンでは築年数の制限がある場合でも、フラット35は一定の基準(耐震性など)を満たせば利用できます。団信(団体信用生命保険)の加入が任意である点も特徴で、健康状態に不安がある方にも選択肢になりやすい制度です。
ただし、
- 「フラット35適合証明書」を取得する必要がある
- 構造や面積などの基準を満たしていないと利用できない
といった条件があります。築古物件でフラット35を使いたい場合は、インスペクションと組み合わせて早めに適合可否を確認しておきましょう。
● 修繕費もまとめて借りる「一体型ローン」が便利
中古住宅は、購入とリフォームを別々に考えると資金計画が複雑になりがちです。ローンを一体化できる商品を選ぶことで、
- 毎月の返済額が把握しやすい
- 自己資金を手元に残しながらリフォームに回せる
といったメリットがあります。
まとめ:中古住宅は「探し方」と「ローン戦略」で失敗を防げる
地方の中古住宅は、価格が手頃で魅力的な物件が多い一方、慎重に見極めないと想定以上のコストがかかることもあります。
この記事でお伝えしたポイントをあらためて整理すると、
- 探し方は「不動産 → 空き家バンク → 知人づて」の3ルートを組み合わせる
- 内見では屋根・外壁・床下・水回り・境界を必ずチェックする
- 「安く買えたけど修繕費が高かった」というパターンが多い
- インスペクション+事前審査をセットで行うと失敗しにくい
- 中古住宅はローンの「比較」と「一体型の活用」がカギになる
地方で家を買うことは、単なる「物件探し」ではなく、これからの暮らし方そのものを選ぶ行為でもあります。だからこそ、焦らず、でもチャンスを逃さないための準備が大切です。
もし、すでに「気になっている物件」がある方や、「いくらぐらいまでなら無理なく借りられるのか」を知っておきたい方は、まずは住宅ローンの事前審査から始めてみるのもおすすめです。

