地方移住の家探し、「不動産サイトに出てこない問題」
地方移住を考えるとき、もっとも多くの人が最初につまずくポイント――それが「家探し」です。
SUUMOやHOME’Sをくまなく検索しても、良い物件がほとんど出てこない。
空き家バンクを見ても、写真が古かったり、すでに募集が終了していたり。
「本当はもっと家があるって聞くけど、どうやって見つければいいの?」
「不動産屋に出ない物件って、探しても大丈夫なの?」
そんな質問を、ロカスモでは本当によくいただきます。
実は、地方の家探しには“公式ルート(不動産屋・空き家バンク)には出てこない家”が数多く存在します。
それは決して裏技でも、特別な人だけが使える方法でもありません。
ただ少しだけ「手間」と「時間」が必要で、同時にそれが
“地域に馴染むための大事なプロセス”にもなります。
この記事では、不動産屋に頼りきらない、もうひとつの家探し――
「地元ルート」で家を探す実践的な方法を、初心者でも分かりやすいように丁寧に紹介していきます。
なぜ市場に出ない家がこんなに多いのか
地方には、多くの空き家が存在しています。総務省「住宅・土地統計調査」によれば、全国の空き家数は約900万戸。
しかしそのうち、実際に市場に出て流通している物件はほんの一部です。
理由はさまざまですが、代表的なものを挙げると:
- 相続が終わっておらず、そもそも売る・貸す手続きができない
- 「知らない人には貸したくない」という気持ちが強い
- 地元の知り合いにだけ声をかける文化が残っている
- 修繕が必要で、不動産屋では扱いにくい物件になっている
などが挙げられます。
▶地方で中古住宅を買うときに知っておきたいことは別の記事で詳しく解説しています。
地方で中古住宅を買う前に必ず知っておくべき7つの注意点|空き家バンクの探し方と賢い住宅ローン戦略
このページでは、制度の細部ではなく、
「暮らしの視点からどう動けば、家と出会えるのか」にフォーカスしていきます。
地方で家を探すとき、みんなが感じる典型的な不安
地方での家探しに不安を感じるのは、ごく自然なことです。移住希望者から特に多い声を、いくつか挙げてみます。
- 不動産ポータルに物件が全然ない。どう探せばいいの?
- 地元の人との関係づくりが難しそう。嫌がられないだろうか?
- 所有者を法務局で調べてもいいの?違法じゃない?
- 直接交渉ってトラブルにならない?
- 値段の相場が分からないし、交渉が怖い
- 契約書や登記はどうすればいい?自分でやっていいの?
この記事では、こうした不安をひとつずつほぐしながら、
「具体的にどう動けばいいか」まで落とし込んでいきます。
データで見る「家はあるのに、出てこない」現状
まず、数字から「なぜ家が市場に出てこないのか」を整理してみましょう。
日本の空き家率は過去最高水準
総務省「住宅・土地統計調査(2023年)」によれば、全国の空き家率は13.8%。
空き家総数は約900万戸に上ります。
しかし市場に出てくるのは、そのごく一部
多くの空き家は、次のような理由で流通していません。
- 相続関係が複雑で、売る・貸す手続きまでたどり着いていない
- 「知らない人に貸すくらいなら、そのままでいい」という気持ち
- 貸したり、売ったりするのが面倒くさい
- 遠方に住んでいて、片付けや管理のハードルが高い
- 老朽化が進み、不動産屋の基準では「商品」として扱いづらい
移住希望者の最大の不安は「住まいの確保」
内閣官房 まち・ひと・しごと創生本部事務局の「東京圏、地方での暮らしや移住及び地方への関心に関する意識調査」において、「どの条件が揃えば、地方に居住してもいいと思いますか」という設問で「理想とする住まいがある」が上位に入っていることからも、移住希望者が感じる不安は「住まいの確保」です。
このデータが示しているのは、
地方には家があるのに、探しても出てこない構造があるということ。
だからこそ、不動産屋以外のルート――「地元ルート」が重要になってきます。
ロカスモ的「地方の家探し」の考え方
ロカスモでは、地方の家探しをする際、次の3つの視点を大事にしています。
① 地方では、家は“市場”より“口コミ”で動く
都市部では「価格」「立地」「築年数」などが市場価値を決めます。
しかし地方では、それに加えて「誰に貸すか・売るか」が同じくらい重要です。
つまり、
“人”に選ばれると、家と出会える確率が一気に高まる
ということです。
② 手間は、地域との関係づくりのプロセス
不動産屋を通さない家探しには、たしかに手間がかかります。
でもそのプロセスの中で、地域の人と挨拶を交わし、話を聞き、名前と顔を覚えてもらうことになります。
その時間は、あとからじわじわ効いてくる「暮らしの安心」につながります。
③ いきなり買わない。まずは「地域に入る」
住み始めて初めて分かることがたくさんあります。
- 風の強さや冬の寒さ
- 朝・夕方の交通量や騒音
- ご近所との距離感や子どもの遊び場
最初から家を買ってしまうのではなく、
賃貸や短期滞在で「暮らす場所としてのリアル」を知ることをおすすめします。
不動産屋を通さない地元ルート家探し:具体ステップ
ここからは、地元ルートで家を探すための実践ステップを紹介します。
ステップ1|まずは地域に“しばらく”住んでみる
いきなり家を買うのは、地方ではかなりリスクが高いです。
たとえば:
- 冬の風が思った以上に強くて寒い
- 朝晩の車通りが多くて子育てが不安
- 想像よりも買い物や病院が遠かった
- 集落の雰囲気が自分たちに合わなかった
こうしたことは、インターネット検索だけでは絶対に分かりません。
賃貸・民泊・お試し移住住宅などで、まずは1週間〜数ヶ月暮らしてみる。
それだけで、「自分たちにとってちょうどいい距離感」が見えてきます。
ステップ2|「暮らしたいゾーン」を決める
地方の暮らしは、市区町村という大きな単位ではつかめません。
同じ市内でも、島ごと・集落ごとに、暮らしの空気はガラッと変わります。
意識したいポイントは:
- どの地区なら、通勤・通学や買い物がしやすいか
- 子育てのしやすさ(公園・学校・交通量など)
- 朝日・夕日・風の抜け方など、自然とのバランス
- 「なんとなく好きだな」と思える景色や雰囲気があるか
この段階のゴールは、
「このあたりで暮らしたい」というゾーンを1〜3つに絞ることです。
ステップ3|“空き家らしき家”を観察する
暮らしたいゾーンが見えてきたら、まち歩きの目線を少しだけ変えてみます。
空き家らしさのサインとして、よく挙げられるのは:
- ポストにチラシや郵便物が長期間たまっている
- カーテンがずっと同じ状態で、生活の気配が薄い
- 庭木や雑草が伸び放題になっている
- お盆の時期だけ草が刈られている(帰省パターン)
ただし、ここで絶対に守ってほしいマナーがあります。
- 敷地内に勝手に入らない
- 建物やポストを無断で撮影してSNSにアップしない
- 「ここ絶対空き家でしょ」と決めつけて断定的に話さない
家は“モノ”ではなく、誰かの大切な場所です。
観察はあくまで道路や公道から、静かに行うのがマナーです。
また、季節や時間帯を変えて何度か様子を見ることで、
「実は平日だけ使っている」「週末だけ帰ってきている」などのリズムも見えてきます。
ステップ4|集落のキーパーソンに相談する
地方では、不動産屋の代わりに頼りになるのが地元の人です。
たとえば、こんな人たちがキーパーソンになりやすいです。
- 自治会長・区長・班長
- 長くその地区を見てきた農家さん・漁師さん
- 商店や理容室など、地域のハブになっているお店の店主
声をかけるときの一言は、これくらいで十分です。
この一言だけで、「あそこなら空いてるかも」「あの家は〇〇さんのところだよ」といった情報が出てくることがよくあります。
大事なのは、「教えてもらって当然」という態度を取らないこと。
あくまでお願いベースで、感謝の気持ちをその場でしっかり伝えることが信頼につながります。
ステップ5|所有者の手がかりを集める
キーパーソンから、持ち主の名前や大まかな状況が分かることも少なくありません。
運が良ければ、「連絡先知ってるから聞いてみようか?」と、その場で電話してくれることもあります。
一方で、「誰の家かは分かるけど、連絡先までは分からない」というケースもよくあります。
そんなときには、次のような方法が一般的です。
地図と地番から、法務局で所有者を確認する
流れとしては、次のようなイメージです。
- 対象の土地・建物の「地番」を確認する。地番の確認は、MAPPLE法務局地図ビューアが便利です。
- 法務局で登記情報を請求する。登記情報の請求はオンラインでも可能です。
- 所有者の氏名・住所を確認する(電話番号は分からない)
法律上、登記情報は誰でも取得できますが、
「調べられるからといって、何をしてもよいわけではない」という意識がとても大切です。
将来、ご近所さんになるかもしれない相手の情報です。
必要以上に周囲に言いふらさないなど、扱いには十分注意しましょう。
ステップ6|所有者へのアプローチは「手紙」が基本
所有者の住所が分かっても、電話番号はわかりません。
そのため、まずは「手紙」からのアプローチをしてみましょう。
手紙に書きたい内容
手紙の構成は、ざっくりと次のようなイメージです。
- 自己紹介
名前・年齢・家族構成・現在住んでいる地域・仕事など。 - その地域を選んだ理由
なぜそのまちや集落が気に入ったのか、自分の言葉で短く。 - その家が気になった理由
佇まい・景色・庭・周辺環境など、ポジティブな印象を伝える。 - お願いしたいこと
「もし可能であれば、一度お話を伺えないでしょうか」と、まずは相談ベースであることを明記する。 - 連絡先
電話番号やメールアドレスを記載し、「電話でもメールでも大丈夫です」と伝える。
最初の手紙で「いくらで売ってください」「○○円で買いたいです」といった具体的な金額の話を書きすぎないこともポイントです。
まずは、「どんな人が、どんな思いでこの家に関心を持っているのか」を知ってもらうことから始めましょう。
ステップ7|条件調整・契約は専門家と一緒に進める
手紙や紹介を通じて、所有者の方とやりとりが進み、
「貸してもいいかもしれない」「売ってもいいかな」となってきたら、いよいよ具体的な条件の話に入っていきます。
賃貸か、購入か。段階的な選択肢もあり
たとえば、こんな形もよくあります。
- まずは賃貸で数年暮らしてみる
- その後、双方が希望すれば買い取る
最初から一括で買うのではなく、
「お試し期間」を含めた段階的な契約にすることで、お互いの不安を減らすことができます。
価格の考え方と専門家の役割
地方の家は、「不動産ポータルに載っている価格」と「地元ルートで動く価格」が必ずしも一致しません。
安くしすぎると、売り手が不安になってしまうこともあります。
そのため、次のような点を専門家と相談しながら進めるのがおすすめです。
- 固定資産税額や周辺の相場を参考にしながら、価格の目安を決める
- 売買契約書・賃貸借契約書の作成
- 所有権移転登記の手続き
- 相続が終わっていない場合の整理
「不動産屋を通さない=法的手続きを省略してよい」ではありません。
契約と登記の部分は、行政書士・司法書士などのプロと組んで進めることを強くおすすめします。
トラブルを避けるために、やってはいけないこと
最後に、地元ルートで家を探すときに「これは絶対NG」という行動もまとめておきます。
- 勝手に敷地内に入り、庭や建物の様子を細かくチェックする
- 空き家の写真を撮り、「買いませんか?」とSNSに勝手に掲載する
- 近所の人に「いくらで売ったのか」などお金の話を根掘り葉掘り聞く
- 所有者の許可がないまま、片付けやリフォームを始める
地方では、噂や情報はあっという間に広がります。
ローカルコミュニティの信頼を失うと、その後の暮らし全体が難しくなることもあります。
「自分が逆の立場だったらどう感じるか」を常に想像しながら、丁寧に動いていきましょう。
どんな人に「地元ルート家探し」は向いている?向いていない?
向いている人
- 人との信頼関係をじっくり育てるのが苦にならない
- 手間や時間を「めんどう」ではなく「面白いプロセス」と感じられる
- 古い家の手入れやDIYに興味がある
向いていない人
- 転勤や入学などで入居期限が迫っており、時間がない
- 手続きはすべてワンストップでお任せしたい
- 知らない人との関わりが強いストレスになってしまう
どちらが良い・悪いではありません。
自分や家族の性格・タイミングに合った家探しの方法を選ぶことが、いちばん大事です。
まとめ:3つのルートを組み合わせると、地方の家探しはラクになる
最後に、この記事のポイントを振り返ります。
- 地方には「不動産屋・空き家バンクに出てこない家」がたくさんある
- 家は“市場”だけでなく、“人づて”でも動く
- まずは賃貸などで地域に入り、「暮らしたいゾーン」を絞る
- 空き家らしき家は、マナーを守りながら静かに観察する
- 集落のキーパーソンに相談し、所有者の手がかりを集める
- 所有者へのアプローチは手紙から。条件の調整や契約は専門家と
不動産屋
空き家バンク
そして、今回紹介した地元ルート。
どれが優れているという話ではなく、
この3つを組み合わせることで、あなたの選択肢はぐっと広がります。
焦らず、丁寧に、楽しむように探していけば、
きっと「この家だ」と思える出会いが訪れます。
ロカスモは、そんな出会いと、そこから始まる地方での暮らしを、これからも一緒に応援していきます。

